※本記事は筆者個人の見解に基づくものであり、特定の職種や資格を否定する意図は一切ありません。

AI 技術が急速に進化し、専門職の領域にも深く入り込むようになった現在、これまで「人にしかできない」とされてきた士業の中にも、業務の一部または大部分が自動化されていく可能性が高まっています。本稿では、どの士業が特に AI の影響を受けやすいのか、そしてそれはなぜなのかを、要素ごとに丁寧に掘り下げながら説明していきます。業務プロセスの性質、必要とされる判断能力、顧客との関係性、そして職域の将来性といった視点を複合的に考慮しつつ、なるべく実務の現場感覚に沿ってまとめることを意図しています。


■ AI の影響を受けやすい士業の特徴

AI の参入に弱い士業には共通する性質が存在し、それは「判断の定型化」「情報処理業務の比率の高さ」「直接的な対人介入の少なさ」という3つの要素に集約されます。すなわち、法律や制度に照らして書類を整える作業や、形式的に揃ったデータを分析または整理する仕事ほど、AI が正確かつ高速に代替できる可能性が高く、人間ならではの介在価値が薄れやすくなる傾向があります。これらの性質を強く有する士業は、業務量に対して人的付加価値が相対的に小さくなりやすいため、長期的に「AI によって市場が縮小する第一候補」と見なされています。


■ 1. 行政書士

行政書士は、許認可申請や契約書作成など、膨大な書類作成業務を担う職種として知られていますが、これらの業務の多くは法令に沿った形式的な文書作成であるため、AI による自動生成と非常に相性が良い領域といえます。特に、申請書類のテンプレート化が進むと、AI が入力情報を適切に整理し、判断基準に沿った形で書面を瞬時に作り上げることが可能となり、人的な作業比率は大幅に下がっていきます。さらに、自治体や国のオンライン申請システムが進化すれば、申請代行の需要そのものが縮小する可能性も否定できず、中長期的には市場規模の圧縮が進むと予測されます。


■ 2. 司法書士(特に不動産登記業務)

司法書士の中でも、不動産登記業務は極めて定型性が高く、必要書類とプロセスが標準化されているため、AI が得意とする「決まった手順に従い情報整理を行う作業」に置き換わりやすい領域です。特に大規模な不動産テック企業が、オンライン登記や自動化された書類処理プラットフォームを構築すれば、登記アプリケーションの自動生成や電子申請の自動化が現実となり、人間が介在すべき工程は限定されます。加えて、価格競争の激化や事務所の集約化が進むと、小規模事務所の存続はより困難になる可能性があります。


■ 3. 行政手続きを中心とする一部の士業サービス

どの資格であっても、行政手続きを「代わりに行う」ことを軸にした業務構造を持つ場合は、AI の導入によって大きく効率化される可能性が高いといえます。行政手続きは本質的に「事実関係の整理」と「必要な書類の提出」という二本柱で成立するため、この2つが自動化された瞬間、人間の介在価値は劇的に低下します。特に、自治体や国が提供する電子申請プラットフォームがより高度化すれば、ユーザー自身がAIのガイドに従うだけで完結できる未来も十分想定されます。


■ 4. 逆に AI に強い士業は?

AI の進化がどれほど加速しても、人間の深い理解や倫理的判断、複雑な折衝、関係調整が求められる領域では、人間の専門家が持つ価値はむしろ高まります。たとえば以下の士業は、現場対応や交渉、心理・医学・経営などの複合的判断を要するため、AI への置き換えが極めて困難です。

  • 医師(診断・対話・治療計画・心理的支援)
  • 産業医(労働者との面談・現場視察・組織改善・経営層との調整)
  • 社労士(労務トラブル解決、企業との折衝、制度設計)
  • 中小企業診断士(経営判断・組織分析・事業戦略立案)
  • 弁護士(交渉、訴訟判断、倫理的判断、戦略構築)

これらは単なる情報処理ではなく、「複合的な人間理解」や「相手の反応に応じた判断」が不可欠であり、AI では代替が困難な本質的価値を持っています。


■ まとめ

AI 技術は士業のあり方を大きく変える一方で、人間に固有の価値が輝く領域をより鮮明に浮かび上がらせています。書類作成や行政手続きの代行を中心とする職種は今後影響を受けやすいものの、人との対話や複雑な判断を伴う士業はむしろ重要性が増す可能性があります。

士業の将来を考える際には、「何が自動化されやすいのか」「どこに人間でしかできない本質的価値があるのか」を冷静に見極め、自身のキャリアと組み合わせながら長期的に戦略を立てることが求められます。

※本記事は筆者個人の見解であり、特定の資格や職種を推奨・否定する意図はありません。