目的:代用有価証券を実務で使う際に最も重要になる「掛目(担保評価率)」の仕組み・算出要因・運用上の注意点・実務フローを、細かく解説します。
代用を使って資金効率を高める一方で、掛目の扱いを誤ると追証・強制決済につながります。読みながら自分のルールを作ってください。
1)まず結論(要約)
- 掛目 = 保有する有価証券の「担保として認められる割合」。評価額 × 掛目 = 担保価値。
- 掛目は 証券会社・銘柄・商品種別ごとに異なる(同じ銘柄でも変わる場合あり)。
- 掛目が下がる(引き下げられる)と担保価値が減り、追証になる可能性がある。
- 実務上は 「掛目一覧の事前確認」+「余裕バッファ(最低でも20〜30%)」 を必ず設けること。
2)掛目の定義と計算式(超基本)
定義:掛目(%)は、時価評価額にかける係数。
計算式:担保価値 = 時価評価額 × 掛目(例:80% → 0.8)
例:時価100万円、掛目80% → 担保価値 = 100万円 × 0.8 = 80万円
重要:掛目は「担保としての安全マージン」を確保するための割引であり、証券会社のリスク判断により変動します。
3)掛目が決まる要因(詳細)
掛目は単なる恣意的数字ではなく、複数の要因を勘案して決まります。実務目線で解説します。
A. 流動性(市場でどれだけ売買されるか)
- 流動性が高い(出来高が多い)銘柄は掛目が高め(担保価値が高い)。
- 逆に流動性が低い銘柄は掛目が低く、場合によっては0%(代用不可)となります。
B. 価格ボラティリティ(値動きの荒さ)
- 値動きが荒い高ボラ銘柄はリスクが高いため掛目が低く設定されます。
- 低ボラで安定的に推移する大型株は高めの掛目が期待できます。
C. 信用リスク・発行体の健全性
- 倒産懸念や財務不安がある銘柄は掛目が低い、または対象外。
- 業績の急悪化などで「一夜にして掛目引き下げ」が起きることがあります。
D. 商品種別(株式・ETF・REIT・投信・外国株)
- ETF・主要株:比較的高い掛目(例:70〜80%前後)になりやすい。
- REIT:分配性により掛目が変動することがある(リスク評価により低め)。
- 投資信託(非上場):証券会社によっては対象外、または掛目が低め。
- 外国株(米国株等):為替リスクや決済リスクを勘案し掛目が低く設定されることがある。
E. 市場条件・相場環境
- 市場が急落する局面では、一斉に掛目を引き下げる事例がある(流動性低下や急変リスクを反映)。
- これが追証の発生要因になるため注意が必要。
4)掛目の「動的調整」とその実務フロー
掛目は固定ではありません。証券会社は定期・不定期に掛目を見直し、通知します。典型的な運用フロー:
- 日次で値洗い(時価評価) → システムで担保価値を再計算
- 定期見直し(例:四半期・月次)/臨時見直し(銘柄急変時)
- 掛目改定の通知(メールやサイト告知)
- 掛目改定の反映(即時〜翌営業日等、会社ルールに依存)
- 必要な対応(追加入金/ポジション縮小) の催促(期日指定で追証)
- 対応がなければ強制決済の可能性
現場ポイント:通知を見落とすと「知らぬ間に追証・強制決済」になるため、自動通知設定(メール/アプリ通知)を必須にすること。
5)掛目引き下げが起きたときの「即時対応リスト」
掛目が下がったら、速やかに以下を実行してください(優先順位順):
- 現金を即入金(最も確実)
- 建玉の一部を自己判断で決済(損切り・ポジション縮小)
- 担保にしている資産を差替え(流動性の高い資産へ)
- 証券会社に連絡して猶予や対応策を相談(場合によっては一時的措置あり)
注意:証券会社は「追証期日」を指定する場合が多いです。期限を過ぎると強制決済が起きます(売却順序・手数料負担は会社規定)。
6)口座区分(一般/特定/NISA等)と掛目の関係
- NISA預かり:多くの証券会社で代用にできない(掛目0%)扱い。NISAは非課税優先のため担保には使えないことが通常。
- 一般口座 / 特定口座(課税口座):代用可能なケースが多い。代用するには保有口座を課税口座にしておく必要があることがある(移管・振替が必要)。
- 外国株・海外ETF:口座区分とは別に、別ルールで掛目が設定される場合がある。
実務TIP:代用目的があるなら、保有はあらかじめ一般/特定口座で行う(NISAで買ってしまうと担保に使えない)。口座変更の手続き時間も計算に入れておくこと。
7)証券会社間の違い(実務上の注目点)
- 対象銘柄範囲:SBIは取り扱いが広く、ETF・投信まで含むことが多い。DMMはFX連携が強い。楽天はポイント連携やUIが優位。
- 掛目の公表状況:一部の証券会社は掛目一覧を公開しているが、細かい銘柄別一覧はログイン後の画面でしか見られない場合が多い。
- 自動振替・自動代用設定:自動で担保に回すか手動で振替するかを選べる会社があり、自動は手間が少ないが、意図しない担保化にも注意。
- 掛目変更時の通知・猶予期間:会社により異なる。通知が早く、猶予が長い会社の方が利用者に優しい。
8)実務チェックリスト(口座開設前・運用開始前に確認すること)
- 代用対象銘柄一覧(ログイン画面で確認)
- 銘柄ごとの掛目(目安)(表でダウンロードできるか)
- 掛目改定の通知ルール(メール・SMS・アプリ)
- 自動振替(代用)機能の有無と挙動
- 追証の通知方法と猶予期間(即時ロスカットか猶予ありか)
- 強制決済の優先順位(どの建玉・どの資産から売られるか)
- 口座区分(NISAは代用不可か)
- 手数料体系・借入金利・貸株条件(代用時のコスト面)
- サポート体制(電話・チャットの対応)
9)リスク管理ルール(実践的推奨)
- 代用で使う資産はポートフォリオの上限を設定(例:現物資産のうち最大30%を代用に使用)
- 常に担保評価に対して20〜30%のキャッシュバッファを確保(掛目引き下げ・急落に備える)
- 相関チェック:担保にしている資産と建玉の相関が高い場合はリスク増。異相関(例:株担保×為替建玉)を検討しすぎない。
- アラート設定:証拠金維持率が閾値を下回る前に通知が来るよう設定。
- 定期的なストレステスト:主要リスク要因(-20%下落、掛目50%への引き下げ等)で耐えられるか確認。
10)よくあるQ&A(短めに)
Q1:掛目が突然0%に変わることはある?
A:極端なケースではあり得ます。流動性喪失や破綻リスクが高まった場合、証券会社は代用除外を行います。
Q2:掛目は自分で交渉できる?
A:原則できません。大口取引先や法人の一部で個別協議が可能なケースはあるかもしれませんが、個人向けはルールに従うのが通常です。
Q3:NISAの株を担保に回せる?
A:一般に不可です(NISA預りは代用対象外のことが多い)。事前に口座区分を確認してください。
11)最後に(まとめ)
代用有価証券は資金効率を高める優れたツールですが、適切な運用ルール(%上限、バッファ、連絡体制)を決めてから使うのが鉄則です。
掛目は“安全バッファ”。高い掛目=担保価値が高いが、掛目は変動する可能性がある。
実務では 「事前確認」→「余裕バッファ」→「自動通知」 の3点セットが最重要。