複数物件を保有してスケールアップが進むと、家賃収入の増加に伴い所得税や住民税の負担も大きくなり、節税や法人化の検討が現実的な課題となります。
個人での所得税累進課税は最高55%まで達する可能性がある一方、法人化することで税率を抑えつつ、経費計上や損益通算を柔軟に活用でき、資産防衛にも有効です。
ここでは、個人・法人の税務上の違いや経費計上、融資戦略との関係などを具体例と数値入りで詳しく解説します。
1. 個人投資と法人化の税務上の違い
- 個人投資では、家賃収入から経費や減価償却費を差し引いた所得に対して、所得税(5%~45%)と住民税(10%程度)が課税され、収益が大きくなるほど累進課税による税負担が急増します。
例えば、年間家賃収入600万円、経費・減価償却費200万円の場合、課税所得は400万円となり、所得税・住民税合計で約80万円が課税されますが、年間家賃収入1,200万円まで増えると課税所得1,000万円となり、税額は約270万円まで跳ね上がります。 - 法人化すると、法人税(15%~23.2%)、地方法人税(約1%)、事業税(3.4%~6.7%)の合計で実効税率が30%前後となるため、個人最高税率55%と比較すると大幅な節税効果が期待でき、特に複数物件を保有し家賃収入が1,000万円以上になる段階では、法人化のメリットが顕著になります。
2. 経費計上の範囲と節税効果
- 経費として計上できる項目は、減価償却費・修繕費・管理費・火災保険・地震保険・ローン利息など多岐にわたり、法人化することで一部の交際費や役員報酬なども経費化可能となるため、課税所得をさらに圧縮できます。
例えば、年間減価償却費100万円、修繕費50万円、管理費30万円、保険料20万円を経費計上すると、法人課税対象額を合計200万円圧縮でき、節税効果は60万円程度になります(実効税率30%換算)。 - 特に法人化では、役員報酬を柔軟に設定することで個人所得と法人所得のバランスを調整でき、税率を最適化する「所得分散」が可能となり、節税と資産形成を両立できます。
たとえば、法人所得が800万円の場合、役員報酬400万円を自分に支給することで法人課税対象を減らし、所得税控除を受けながら生活資金を確保できます。
3. 物件規模・収益規模に応じた法人化のメリット・デメリット
- 法人化のメリットは節税だけでなく、物件購入の際の信用力向上、相続対策、損失の繰越、退職金積立など多岐にわたり、特に複数物件を所有して年間家賃収入1,000万円以上になる場合はメリットが大きくなります。
逆に、1棟目・小規模物件のみの場合、法人維持費(年間約20万円~50万円)や会計・税務処理の手間が利益を圧迫するため、メリットが小さい点は注意が必要です。 - デメリットとしては、法人融資の場合、個人保証や物件担保が必要になるケースが多く、融資の制限がやや厳しくなることがあります。
ただし、複数物件を所有して収益性が高ければ、金融機関の評価は上がる傾向にあり、計画的に法人化することでデメリットを最小化できます。
4. 融資戦略と法人化の相性
- 法人化による融資では、個人属性・法人の決算状況・物件の収益性が審査に影響し、法人設立初年度は融資が通りにくい場合があるため、2棟目・3棟目取得前に計画的に設立・決算処理を行うことが重要です。
例えば、法人設立直後の融資では自己資金比率を30%以上求められる場合がありますが、決算1期終了後は物件収益を担保に自己資金比率を下げて融資を受けやすくなるケースがあります。 - 融資枠を法人化と組み合わせることで、個人だけでは限界だった資産拡大を実現でき、1,000万円以上の追加投資を法人を通じて効率的に行うことも可能です。
5. 長期的な資産防衛と相続対策
- 法人化は相続対策にも有効で、法人名義で物件を保有することで、相続時に不動産を個人で分割する煩雑さを回避でき、株式の贈与として評価されるため、相続税評価額の圧縮も可能です。
例えば、時価3,000万円の物件を法人株式として子どもに贈与する場合、評価額は約半分程度となり、相続税負担を大幅に減らすことができます。 - さらに、法人名義で長期的に積み上げた物件群は、売却益や賃貸収益を法人内で繰り延べることが可能なため、将来的なキャッシュフロー計画が立てやすく、資産防衛に直結します。
まとめ
- 不動産投資における節税戦略と法人化は、複数物件を保有して収益規模が大きくなる段階で、税負担を最適化しつつ資産を守る上で非常に重要な戦略です。
- 個人・法人の税率・経費計上範囲・融資戦略・相続対策を総合的に考え、計画的に法人化することで、節税効果だけでなく長期的な資産形成と防衛も実現可能です。
💡 次回予告
第九回では、「中古物件リノベーション戦略」について、
低価格で収益性を最大化するリフォーム事例、利回り改善策、購入時のチェックポイントを具体例・数値入りで解説します。