──「働き続けられない自分」を前提にした現実的な備え ──

精神科医として診療をしていると、
患者さんが最も恐れているものが何かは、はっきりしています。

病気そのものよりも
「このまま働けなくなったら人生が終わるのではないか」

この恐怖が、症状を悪化させ、
回復を遅らせ、
本来なら取れたはずの選択肢を奪っていきます。

この記事では、
精神科医の立場から見た
「休職や退職を選んでも人生が詰まない状態」
構造的に整理します。


「働き続ける前提」が人を追い詰める

多くの人は、無意識に次の前提で生きています。

  • 仕事は辞めてはいけない
  • 休職はキャリアの失敗
  • 働けなくなったら終わり

しかし精神科臨床では、
この前提そのものが、
症状を固定化させる最大の要因になることがあります。

「選べない状況」は、
人の回復力を著しく下げます。


人生が詰む瞬間は「収入がゼロになるとき」

精神科医として断言できるのは、

人生が詰むかどうかを決めるのは
診断名ではなく「キャッシュフロー」

という事実です。

  • 病名が重くても生活が回る人は回復する
  • 症状が軽くても収入が途絶えると追い詰められる

休職・退職が危険になるのは、
収入がゼロになる瞬間です。


設計①:収入が止まらない仕組みを先に作る

最初に考えるべきは、
「どうすれば働けなくても最低限の収入が続くか」です。

現実的な柱

  • 傷病手当金
  • 失業給付
  • 所得保障保険
  • 生活防衛資金(現金)

これらが組み合わさることで、
「辞めてもいい」「休んでもいい」
という心理的余裕が生まれます。


設計②:生活費を“下げられる構造”にしておく

収入よりも重要なのが、
固定費の重さです。

精神科医の立場から見ると、
回復しやすい人には共通点があります。

  • 家賃が収入に対して軽い
  • ローンが過剰でない
  • 保険料が重くない

「稼ぎ続けないと維持できない生活」は、
休職・退職と相性が最悪です。


設計③:「辞めても詰まない」と思える認知を作る

精神科的に非常に重要なのが、
認知の設計です。

  • 仕事=人生そのもの、になっていないか
  • 辞める=敗北、になっていないか

実際には、

  • 退職後に回復する人
  • 仕事を変えて安定する人
    は少なくありません。

「選択肢がある」という感覚自体が、
治療効果を持ちます。


退職が“治療になる”ケースもある

これは誤解されやすい点ですが、

  • 職場環境そのものが症状の維持因子
  • 業務内容が特性と合っていない

こうした場合、
休職や退職は「逃げ」ではなく
医学的に妥当な介入になることがあります。

精神科医としては、
無理に復職させるよりも、
環境を変えた方が予後が良い例を数多く見ています。


「戻れる場所」を複数持つという設計

人生が詰まない人の特徴として、

  • 収入源が一つではない
  • 働き方の選択肢が複数ある
  • 社会との接点が一つに固定されていない

という点が挙げられます。

これは副業や起業だけでなく、

  • 短時間労働
  • 業務委託
  • 一時的な非正規

も含みます。

「戻れる場所が複数ある」
それだけで、心理的安全性は大きく高まります。


精神科医が見る「詰まない人」の共通点

臨床を通して感じる共通項は、以下です。

  • 休むことを“選択”できている
  • 生活が即座に破綻しない
  • 自分を責めすぎない構造を持っている

逆に、
「働き続ける以外に道がない」
と思い込んでいる人ほど、回復に時間がかかります。


まとめ:人生を詰ませないための本質

  • 休職・退職は人生の失敗ではない
  • 本当のリスクは「収入ゼロ」と「選択肢ゼロ」
  • 設計次第で、休むことは安全になる
  • 逃げ道がある人ほど、結果的に強い

精神科医として伝えたいのは、
次の一言です。

人生は、働き続けられる人だけのものではありません。

休むことを前提に設計された人生は、
むしろ折れにくく、長く続きます。

この記事が、
あなたが「休んでもいい」と思える
小さな支えになれば幸いです。